トップ

文字サイズ設定

本文文字サイズを大きくする 本文文字サイズを小さくする

白助物語イラスト 妻となった女は、姿形といい心といい、馴れるほどにますます情け深くなっていきました。そうして二人で暮らしているうちに、このように素晴らしい女性がいるということが、土地を治めていた蘇我大臣の耳に入りました。大臣はその女性に興味を持ち、夫である白助に親しげに近づいてきました。そしてある時、大臣は白助と小弓を競っている時にこう言いました。『小弓勝負に私が負けたらお前に千両の金をやろう。しか私が勝ったら、お前の妻を私に譲ってくれ』。そう言われた白助は、妻を思い心から困り歎きます。そこで観世音に祈りを捧げたところ、勝てないと思った勝負に勝って千両の大金を得ることが出来ました。

 領主はさらに言いました。『最強の力士をもってお前と相撲を取らせよう。もし我が方の力士にお前が勝ったら、お前を領家代に取り立てよう。しかし、もし我が力士が勝ったら、お前の妻を私に譲ってくれ』。白助は答えます。『あなた様となら私自身が相撲をしましょう。しかしあなたが代りの力士を立てるのなら、私も誰か力士を探して参ります』。そう言って後日を約束して白助は領家のもとから帰ってきました。

 白助はこのいきさつを妻に語って聞かせます。すると妻はそれに答えて言いました。『あなたは何も心配することはありません。私が代りの力士を見つけだしましょう』。そう言うと、奈良の長谷より連れてきた少年を使いに出したのです。

 少年は翌朝になって、六十才くらいの疲れきった様子のヨボヨボの男を連れて戻ってきました。ところがこの男が相撲に勝ったのです。白助は大喜びでこの男が何者なのかを尋ねましたが、男は詳しく答えようとしませんでした。そこで、白助は密かに男の帰っていった先を見届けると、近江国の高島郡にある太山寺という寺の右の仁王さまであることがわかったのです。

 白助はこうして約束どおりついに領家代となり、千両の金によって大変豊かになりました。そこで両親のため、そして自分をここまで導いてくれた観世音の大慈悲に対する報恩のために、かつて長谷山の山中で夢に拝んだ十一面観世音菩薩を造り、自分の家の敷地に寺を建てました。これこそ今日の信濃国更級郡にある新長谷寺であります。