住職日記

おっちょこちょい

思い込む、ということがある。

その思い込みに気がついても、いつどの時点でそのように思い込んだのか良くわからないけれども、とにかく確信して行動してしまっていることがある。

今日もそういうことがあった。

ご法事に出かけた。

遅れないように、だいぶ早く出発した。

予定の会場に到着した。

しかし、その駐車場は静まり返っていた。

こりゃぁ、違うな、と思い、記憶を振り返る。

あ、そうだっ、ご葬儀の会場だった。

ひらめいて(って、ここで思い込んだのか、そもそも最初から間違っていたのに、ここで加えて過ちが拡大したのだが)、車を転回。

余裕を持って寺を出たのが幸い(災い)して、ご葬儀を営んだ会場へとアクセルを踏む。

ああ、今日は冬の日差しが柔らかくて、穏やかないい一日だ、とのん気にいく。

ところが、その某斎場につくと、見知らぬお宅のお葬式の真っ最中。

時計を見る。

これって、非常にまずいのでは?

携帯を探す。

忘れてきた。。。。

不幸が重なる。

私の姿を見かけた斎場のスタッフが走りよってきた。

「いかがなさいましたか?」

非常に慇懃である。

申し分のない対応だが、私は非常にあわてている。

「あの、今日、こちらで〇〇さんの法事、やる?」

「・・・・・、これから、ですか?」

「うむ(と、かろうじて威厳を保つ)」

「弊社の、他店に問い合わせてみます」

と、ピポピポと携帯。

「ご住職、あいにくでございますが、〇〇さまのご法事は、本日は予定されていないようでございますが・・・・」

「う、うむ(と、威厳がくずれていく)、、、では、その、誠に申し訳ないんだけど、電話を拝借したいんですが」

「わたくしのでよろしいですか」

「も、も、もちろん、ぜひ、いますぐに」

大柄で汗をかきながら働いていた彼は、ご自分の携帯を差し出し、一瞬引っ込めてズボンで携帯を拭いてくれた。

「ど、どうぞ」

「ありがとう」

こうしている間にも、刻々と時間を過ぎていく。ああ。

寺に電話。

女房が出る。

「どこにいるの?」

・・・威厳失墜・・・

「詳細は後で報告いたしますので、会場を教えていただけますか?」

「もぉっ、×××よ」

その会場の名を聞いても、記憶にないから、やはりどこかで確信犯、思い込んでしまっていたらしい。

携帯を貸してくれた斎場のお兄さんに慇懃に御礼をして携帯を返すと、あわてて車に乗り込んだ。

けげげ・・・

ガソリンが、ないではないか。

三日も前から女房に「ねぇ、ガソリン大丈夫?」と懸念を表明されていたのに、この今になってガソリンの危険ランプが点灯してしまった。

ところが地獄に仏か、目の前はスタンドではないか。

ああよかった。

と、ホッとしたのもつかの間、ゲゲゲゲゲ!

さ、財布が、ないではないか。

いったい、ここからあの××まで何キロあるのだろうか。

ランプが点いてから何キロくらい持つのだろうか。

20キロくらいは大丈夫なんて噂を耳にしたことがあるが、ここから××までならざっと10キロ少々の道のりだろうか。

たぶん、大丈夫、だと思う、思いたい、大丈夫であってほしい。

だいたい、どうあっても行くしかないのだ。

かくなるうえは、ガソリンが持つほうに賭けて、いざ××へ!

しかし、運転している間中、バイパスでガス欠でストップして後続車に大迷惑をかけている坊さんの図が、想像されるのであった。絵的に情けなさ過ぎる。。。。

いつ止まってしまっても追突されないように、チョービビリながらも、出来るだけ左側に車を寄せて走行。

これって、危険走行?

なるべく見ないようにしているガソリンのメーターが、いまだかつて見たこともないほど下まで下がっている。

しかも、こういう時にはグングン下がっているように見えるのだ。

いったいどこまで下がると本当に止まってしまうのであろうか。

耳元で悪魔がささやく「試してみる?」

こうなったら、いちかばちか、そのあたりのスタンドに行って免許証を提示して身分を証明して、ガソリンを少しだけ貸しておいてもらうべきか。

いっそ、ここで乗り捨てて、タクシーを呼ぶべきか。

そうこうしているうちに、くるまは走る。

こんな時、マラソン選手なら「がんばれ」といえば、嫌でも少しくらいはがんばってくれそうだが、どんなに愛している愛車でも、がんばれという掛け声でガス欠を克服して走ってはくれないだろう。

ああ。

思い込み、早とちり、携帯忘れ、財布忘れ。

ガス欠の瞬間、アクセルって、どんなふうになるんだろう。

そういえば、一度だけ、スクーターがガス欠になった時があったっけ。

あの時は、突然アクセルがスカッて力なくゴムが緩んだみたいな反応になった。

不安が募ると、情けない記憶ばかりが追想される。

 

かくして、奇跡的に車は××の駐車場に滑り込んだのである。

穏やかな冬の日差しを浴びて、スタッフがニコニコと迎えてくれた。

「お待ちしておりました。ご住職様でも、こういうことが、あるんですね」

「いや、私は、実はしょっちゅうです」

 

法事の会場では、すっかり待ちくたびれた皆様がお待ちになっていた。

「おまたせしました、、、、」

 

これもまた正月ボケなのだろうか。

 

コメント

  1. 幽黙 より:

    住職
    おもしろすぎます
    ああでも
    その感情の揺れも
    大変理解できます
    同じような
    経験もありますゆえに…
    ガス欠はないですが…

  2. 長谷寺 より:

    幽黙さま
    年頭から、だいぶあせりましたし、自分自身に対して、「ああ、人間というのは、いつまでたっても進歩はないなあ」と、嘆息とともに、まあ、しゃーないなー、とそんな自分を笑ったのでした。
    もっとも、会場に到着した時には、面目丸つぶれで、ひたすら陳謝しておりましたが…。

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