8月9日の夜、長谷観音には、400年ともいわれる伝統の祭礼が執行される。 雨乞い祭り、三十三燈篭献灯祭、サンジョサンだ。 夜、8時を過ぎると、境内、参道に灯火が点される。 まだ、人は集まってこない。 でも、やがて、すこしずつ、この夏の夜の祭りに人が集ってくる。 子どもたちが、親たちに手を引かれて、 暗い石段を、登ってくる。 やがて、長い石段の下のほうから、 「とーゆいとー」「とーゆいとー」という男たちのときの声が聞こえ、 露払いの火縄の火影と、 拍子木のカチンカチンという音に導かれて 提灯を手にした若衆たちの姿が、 暗い闇の中から見えてくる。 そのうしろに、たくさんの足音と、激しい息遣いと、 わっしょいという声が聞こえてくる。 すると、突然、一団となった男たちが、どっと石段を駆け上ってくる。 高潮した若衆たちの、気合の入った掛け声と群れなす男たちが踏み鳴らす足音。 三十三の長い竿を担ぐ男たちが駆け上がってきたのだ。 わっしょい わっしょい 観音堂前の広場に、今年も三十三の祈りの灯火が掲げられようとしている。 三十三の提灯が結われた三十三尺の竿が、男たちの手によって建てられてゆく。 今年も、見事な三十三の灯篭が観音さまに捧げられた。 雨を、 恵みを、 村に幸せを、 祈りの灯火がこうして数百年来観音さまに掲げ続けられている。 人々の眼差しが、三十三の灯篭の一点に注がれる夏の夜のこのひと時。 観音さまがお持ちになる蓮のお花の姿と伝えられる。 しかし、この美しい灯篭も、祈りを凝らし、献灯を終えたならば、、、、、 倒す、一挙に、そして、、、、 倒された竿を、男たちがいっせいに取り囲むと、 一気に持ち去ってゆく、 観音さまの霊力を授かった竿は、 一挙に、暮らしの中へ返されてゆくのだ。 この時、ひとつでも提灯を拾えば、 無病息災。 男らは、倒された竿から提灯を拾おうと駆け寄るが、 山崎の若衆は、そうはさせじと竿を引き、押し、 提灯を拾おうとするものは蹴散らされる。 登ってきた石段を、一挙に突き落としてゆく。 石段を、飛び降りるように、 竿とともに駆け下ってゆく若衆たち。 遠く、夜景が見えている、暮らしの世界へ。 観音さまに献じた聖なる竿が一気にもどってゆく。 ありがとう、山崎の衆。 観音さまに、 雨を乞い、 ともに雨を乞うて、 祈りをともにし、 絆の灯火をひとつに。 今年も、無事に三十三の祭りが成し遂げられた。 同じようにして、何百年もこの夜が繰り返されてきた。 父が登った石段、母が見上げた燈篭、 祖父も歓声を上げ、祖母も見つめた提灯。 また来年。 Photo by Kanai Photo Studio