詩人・山尾三省さんの『ことば』という詩をお読みください。
↑「山尾三省を偲ぶ」ページより
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ことば
あなたはどんなことばがすきですか
海ということば
森ということば
いのちということばが
すきですか
それとも
平和ということば
やすらぎということばが
すきですか
それとも
争いということば
憎しみということば
むかつくということばが
すきですか
それともまた
しらけるということば
切れるということばが
すきですか
私は今
いのちということばと
やすらぎということばが
とてもすきです
いのちということばには
わたくしの光があります
安らぎということばには
わたくしの涙があります
あなたはあなたで
わたくしはわたくしで
もろともに
ほんとうに心から好きなことばをみつけて
そのことばを大切にし
そのことばを生きていくのが
人間であり
人間社会であると
わたくしは思います
いのち
やすらぎ
あなたはどんなことばがすきですか
* * * *
ことばは、私たちに欠かせないものですが、身近すぎてその大切さをつい忘れてしまうものでもありますね。
その大切さを見失っていると、ことばづかいが乱暴になったり、またことば足らずになって人間関係に不調をきたすこともあります。
日本は、古来「言霊の幸わう国」といって、ことばの不思議な働き、その神秘的な力によって安らぎが保たれる国であると言われているくらい、ことばを重視する文化を持ってきました。
でも、最近は、ネット社会の匿名性ということもあると思いますが、ことばが冷たくて、暴力的になっているのではないでしょうか。国のため、社会のため、命のためという立場に立つ人が、考えの違う人を口汚く罵っているのは、そこに正義があるとしても、何か胸が苦しくなってきます。
長谷寺は真言宗という宗派に属していますが、この名前の通り、真言宗はことばをとても大切にします。もちろん真言宗だけではなく、仏教全体が、ことば、言語というものを極めて重視します。
人間の活動を、身・口・意の三つ(三業・業=カルマ=活動、働き)に捉える仏教ですが、この中でもとりわけ口業つまりことば、言語活動を重んじます。ことばの働き、ことばづかいが、私たち人間に与える影響、人間関係にもたらす影響、そして社会に与える影響がとても大きいと、仏教は考えているわけですね。
冒頭の詩は、山尾三省さんの作品ですが、三省さんはかつて長谷寺で講演会をした時に、真言宗ということにちなんで、やはりこの詩を最初に読み上げてその日の講演を始めました。
その時の演題は『好きなことば』というものでしたが、要は、真言というものは、突き詰めれば、この詩のように、自分自身が本当に心から好きだと思え、また自分の人生をかけていけるようなことばを求めていくことだ、というわけです。愛なら愛、優しさなら優しさ、感謝なら感謝ということばをいつも自分の暮らしの真ん中にドンと据えて、そのことばを杖に、そのことばをともしびに、そのことばを乗り物に、そのことばを笠に、そのことばを鎧に、そのことばを道しるべにして生きていく。そんな意味で、自分にとって好きなことばは何か?と問うてみる。
そして「このことばと共に生きていく」、と、そんなふうに言えるくらいの「好きなことば」と出会えたら、それはとても素晴らしいのではないでしょうか。
みなさんにとって、好きなことばは何ですか?