小鳥の話
雑宝蔵経というお経にこんなお話があります。
ある山の奥に、たくさんの動物たちが仲良く暮らしていました。
ところがある日のこと山火事が起こります。
火は次第に燃え広がって、動物たちが平和に暮らす森にも火は迫ってきます。
動物たちは、みんなで力をあわせて火を消そうとしましたが、燃え盛る炎はどんどん強くなって、やがて動物たちの森はその大きな火に飲み込まれてしまいます。
その轟々たる炎に追われ、動物たちは火を消すことをあきらめて皆で森を捨て逃げ始めました。
そして遠くから焼き尽くされていく森を見つめて途方に暮れている時、誰かが仲間の小鳥の姿がないことに気がつきます。
小鳥は逃げ遅れてしまったのでしょうか。
すると、燃え上がる山火事の巨大な火柱の上を、小さな鳥が行ったり来たりして舞っているではありませんか。
いったい何をしているのかと、動物たちが小鳥の様子を見てみれば、小鳥は近くの池に降りてはその小さな翼を水に浸らせ、舞い上がっては巨大な炎に向けて翼についたわずかな水を落としているのです。
動物たちは口々に言いました。
「小鳥さん、馬鹿なことをやめなさい。無駄なことはやめなさい。
あんな大きな炎なのですよ。
あなたのそんな小さな翼から落ちる水滴で消せるわけがないじゃないですか。
早くこちらに逃げて来なさい」と。
小鳥は、翼も体も炎と煙で真っ黒になりながら答えます。
「私の小さな翼から落ちる水滴でこの山火事が消せないことくらい私にも分かります。
私のやっていることは、馬鹿なこと、無駄なことかもしれません。
でも、私はこうしないではいられないんです」。
私たちの住む世の中も、争い、憎しみ、不安、病気、貧困の炎が轟々と燃え上がり、私たちの暮らしを飲み込んでいます。
この火を消すなんて、私たちには出来そうもありません。
でも、消そうとすることは馬鹿で無駄なことなのでしょうか。
あなたは、小鳥をどう思われますか?
(明日香村 岡本寺はがき説法寄稿一部加筆)