禅が伝える昔の老師さんのエピソードにはハッとさせられるものが多い。
うろ覚えだけど、こんなのがあった。
むかし、ある修行僧が心から尊敬する師について修行していた。
清僧として知られる憧れの師について修行することが深い喜びだった。
ある時、師のお供でお出かけをした。
川に差し掛かったが、あいにく橋はなく、渡し舟もなかった。
仕方なく浅瀬を歩いてわたろうということになった。
そこには若い女性もひとり同じように川を渡れず困っていた。
すると師が、どれ娘さんや私の背に負んぶなさい、といって若い娘を負ぶって川を渡っていった。
弟子は驚いた。
若い女性を、尊敬する師が負んぶしている姿に、戒を受け仏道を歩むものとして違和感を受けた。
なぜだろう、どうしてだろう。
ぶじに川を渡り終え、師の背から下ろされた女性も深々と頭を下げて去っていった。
しばらく歩いても弟子は師への疑問が尽きなかった。
やがて弟子はたまらず師に尋ねた。
老師さま、我々出家のものは戒を受け、女性に触れることは禁じられております。
しかし、師は触れたばかりか、その背に負われました。
どうしてですか?
すると師は答えた。
「なんじゃ、お前はまだ下ろしてないのか?」
—–
さて、みなさんは、どう思いますか?
私も、この弟子の気持ち、わかりますね~。
でも、師の自由さも、素敵ですね。
このエピソードは、折に触れ、思い出します。
思い出すような時は、何か、このエピソードに心が引っかかるのでしょうね。
住職 記