住職日記

ご自由にお掃除してください

境(きょう)は心に随って変ず、

心垢(けが)るれば境濁(にご)る。

心は境を逐って移る。

境閑(しずか)なるときは

心朗(ほがらか)かなり。

弘法大師 空海「性霊集」 

<意訳>
私たちを取り巻く環境は、自分自身の心にしたがって変わるもの。
心が乱れ汚れていれば、身の回りの環境も乱れ濁るし、その乱れ濁った環境に心は引きずられてしまう。
あなたを取り巻く環境が閑(しずか)であれば、心は朗らかになって、自ずから澄んでくる。

弘法大師 空海
弘法大師空海

弘法大師は若い頃、私たちと同じように思い悩み、道に迷い、とくには人生の岐路で涙を流しとこともあると書き残しています。

そんな悩み多き青春時代に、弘法大師は、厳しく険しい山岳や、荒々しい海岸での修行の世界に飛び込みました。霊山にこもり、岩山で命がけの荒行をし、大海原を見つめ、心身を鍛え、瞑想の体験を深めました。

そして弘法大師は大自然の中で過ごす体験から、人間の心と自然の姿や働きや力が、深くかかわりあっていること学びました。そしてそれは何も「自然」だけではなく、私たちの心のあり方は、身の回りの環境の姿に影響を与え、その姿にまた自分の心は影響されてしまうことへと気づきを深め、さらに仏の教えによって、心を整えていくと、見えてくる環境や世界も整い、その清らかで整然たる環境の中で、さらに心は静まって、朗らかになっていくことを知りました。そんなふうに、自然環境の中で生きる人間の心身の不思議を探求なさったのです。

心が乱れているときは、身の回りのお掃除をする。身の回りが片付いていくと心も片付き、清らかになっていけば心も清らかにすがすがしくなっていく。
心の乱れを心の中だけで解決するのはとても難しいけれど、箒をもって庭を掃けば、知らず知らずに心の塵も掃かれてゆきます。心と体はつながっているのです。体を動かすと、血液や酸素など、日ごろ滞っている命を元気にする働きも活発になります。マラソンのような激しい運動ではなく、庭掃除のような「ほどほど」の動きが心には良いのです。

また仏法の祖であるお釈迦さまは「心は心で整えるのはむつかしい。心を整えるのは呼吸である」と申されました。

ひと時のあいだ、お掃除してみれば、ゆっくりとしたお掃除の作業で自然と良い呼吸が深まり、ほんのりと汗ばめば、体も心もほぐれてくるでしょう。体や心がほぐれてくると、目に映る世界も優しくなります。

どうぞ心ゆくまでお掃除をしてください。

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