住職日記

お相撲と長谷寺

御嶽海関、大関昇進おめでとう

長野県上松町出身の御嶽海関が、ついに大関に昇進!
誠におめでとうございます。悲願達成を迎えたご本人やご両親はもちろんですが、良い時も悪い時も、ずっとたゆみなく熱烈な応援を続けてきた町民の皆さまの思いはいかばかりでしょう。テレビを拝見していて、恩師や地元のファンの皆さんの様子を見るにつけ胸が熱くなりました。
御嶽海関、どうかこれからもケガをせず、持ち味を発揮にしてご活躍ください。

お相撲と長谷寺

お相撲といえば、実は長谷寺にも深いご縁があります。
実は、長谷寺の開基の「白助(しらすけ)物語」に、お相撲の場面が出てくるのです。しかもとても大切な場面なのです。それはこんなお話しです。

長谷寺開基の白助は、亡き父母の供養を念じて千日の祈りを捧げ、善光寺如来のお導きで奈良の長谷山に参詣し、さらに3年の月日の祈りを続けたところ、観音さまが現れて白助の両親供養の思いを叶えてくれました。そして観音さまのお告げで出会った美しい妻と信州更級に戻った白助でしたが、そこに困ったことが起こります。
なんと白助の美しい妻を自分のものにしようと、殿さまが勝負を挑んできたのです。白助が勝てば褒美をとらせるが、負ければ妻を殿さまに差し出せというのです。最初は弓の勝負で、白助は観音さまを念じて何とか勝利し千両の褒美を勝ち取ります。しかし美しい白助の妻を諦め切れない殿さまは、さらなる勝負を挑んできます。それが、お相撲なのでした。

絵本しらすけ物語のお相撲の場面

神仏のお心を知るお相撲

このお相撲の場面は、白助物語の中盤のクライマックスともいえる重要な見せ場となっています。

興味のある方は、ぜひこちらから。【長谷観音の開基伝説シラスケ物語

さて、お相撲は、よく「ご神事である」といいますね。格闘技とかスポーツではなく、日本古来の神さまへの奉納の神事なのですね。今でも、各地で赤ちゃん相撲や子供相撲が神社で奉納されていますし、横綱の奉納の土俵入りもありますね。御嶽海関にもいつかやってほしいものです。

こういうご神事としてのお相撲は、力士同士の戦いが、ある種の「占い」として、遠い昔は大切にされていたという説もあります。戦うということ自体が、思えば霊的な行為なのでしょう。たんに勝つか負けるかを競うのではなく、その決まり手や、勝ち負けの在り方から、神のお考え、神意を読み取るわけですね。

昔は、巫女さんのようなシャーマンと呼ばれる宗教者が、特別なお祈りを通じて神さまのお告げを聞き取ったり、自らが神の依り代となって、そのお告げ(ことば・意志)を伝えることがありました。今でも地域によっては大切な護られています。

そしてお相撲も、男性シャーマンたる力士たちが、土俵入りの作法を通じて次第に忘我入神の心境に至り、土俵という特別の空間で肉体をぶつけ合います。この丸い土俵を囲んで、人々が成り行きを見守り、そこで繰り広げられる技の繰り出しあいに意識を任せていく時、始めは激しい突っ張りや組手、マワシ争いも、次第に形が整って、収まっていきます。そしてある時、何らかの決まり手によって勝敗が決まりますが、その時、見守っている人々の意識も、混乱から調和または解放へと収まっていき、誰もがその結果を共有します。カオスからコスモスへ、混乱から調和へ、その決まり手は、あるいはそこに顕れてくる「結果」は、神からのメッセージ、または「コトバ」として受け止められました。

もちろん、それを正しく読み取るには、それはそれで格別な知恵が求められたはずです。占いというのは、非常に高度な知恵の世界なのですから。実は、相撲に先立って殿さまとの間で争われた「弓」もまた、聖なる占いであったと言います。

白助ものがたりの絵伝より

白助は、相撲にも弓にも勝利します。それによって、殿さまは引き下がり、白助は長谷寺を建立するのですが、お相撲や弓が占いであったことを考えれば、この場面は単に殿さまとのやり取りに収まる話ではありません。
ここで、何かが、神に問われたのではないでしょうか。

白助が、寺をおこすことの是非か。

白助は、観音に仕えるにふさわしい人物であるか否か。

あるいは、仏教寺院がハセという古来の聖地に建てられることの是非か。

土地の人々は、貧しいみなしごが目の覚めるような美しい女性を妻として、今や外来の神たる観音菩薩をまつる寺を建てようとしていることについて、その是非を巡って困っていたのかもしれません。そう考えれば、殿さまからの弓と相撲の勝負の申し出は、妻を巡る争いの名を借りた、地域住民をあげての占いであったと思われます。

御嶽海関は、大関昇進を祝った翌日の今日、親方より結婚の報告もありました。綱とりの前に「嫁とり」というめでたいお知らせに、ファンとしてはますます頼もしく感じ次第です(^-^)

もしかしたら、御嶽海関は、今場所、人生をかけて占ったのかもしれませんね。

そして優勝を果たし、大関昇進も実現したことによって、お相撲の神さまが「よし」と結婚を認めてくれたのでしょう。

誠におめでとうございます。嫁とりの次は、綱とりだ!



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