住職日記

焼八千枚護摩供 その3 身口意を調える

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行者の食事

この二十一日間の食事は朝と昼の二食と定められます。仏道本来の二食(にじき)です。最初の一週間は肉類を断つ精進、二週目は米や麦などを断つ五穀断ち、そして三週目は断食となり、断食の間は白湯と水のみで過ごします。行者の年齢や体力により、先生である阿闍梨の判断で薬や塩は許されますが、最終日の八千枚の行に向け、厳しく精進潔斎をします。 

すでに千日祈祷に入った時からアルコールは断ち、また八千枚の五十日前には肉も断っていました。こうした食事制限は、瞑想三昧に徹する行者の肉体と精神を、食を通じてそれにふさわしいものへと変容させていくものだと思います。精をつけるようなものは摂らず、肉体を静め、精神性を優位にしていきます。そうやって身心を聖化し、浄化する食の修行でもありました。現代生活の中にある平凡な生臭坊主である私にとっては、期間を限っての潔斎であり、往古の僧侶、修行者と比べたら恥ずかしいレベルですが、できる限り教えに従い、食を通じて心身を見つめなおす時間ともなりました。


一方で、日ごろの刺激の強い味付けや高カロリーな食べ物を離れることで、むしろ味覚は冴え、「質素な」食べ物の普段感じることのない美味しさに大変感激しました。こうした感覚の冴えは、瞑想していく意識にとってとても大切なものだと思います。日に日に痩せていきましたが、腹部が軽く爽やかになり、食べ物を減らしているのに疲れを感じなくなって、体調は良好でした。限られた食材の中で、少しでもおいしいものをと、研究して作ってくれた妻に感謝しています。

食も修行。そして行中の楽しみ(>_<)

個人的な感想ですが、五穀断ちになってからの食べ物は、農業以前のものといえるかもしれません。米や麦を断ち、木の実や、根のものなどを中心に摂るのは、遠く私たちの祖先が営んでいた採集時代の食に回帰することなのかもしれません。
思えば人類数十万年の歴史の中で、農耕による食べ物は二千~三千年程度ですから、私たちの肉体の根本は、むしろ五穀断ちのメニューが適しているのではないでしょうか。
米作りの国であった釈迦国の王子であったお釈迦さまによって開かれた仏教が、修行者の食に強い関心を示し、食を節して、時には食を断ってまで瞑想を重んじることを、仏法を伝える私たちは忘れてはならないものと思います。

とにかく噛んでゆっくり食べる

三密の教え

私は、この行に入る前に、千日の観音法と百日の護摩法を勤め、その最後に焼八千枚護摩供に挑みました。
これらの修法は、すべて弘法大師によって伝えられた「本尊の三摩地の法」といわれる密教の瞑想法です。これは行者を導く本尊すなわち観音様やお不動様の深い悟り(三摩地・三昧)の世界に、行者自身が入っていく瞑想です。

そのために修行者が行うのは、体と言葉と心を調える瞑想、すなわち身口意の三つの働きを、仏の身口意の働きに調和させていく瞑想です。これを三密加持と言い、弘法大師が体系化した真言密教独自の瞑想法です。
この三密加持によって、本尊との瑜伽(感応道交)を試み、真実の自己に目覚めること、お経(大日経)が示す「実の如く自心を知る(如実自知心)」ことを目指すものです。この二十一日間の行で感じたことや体験したことも、私にとってはかけがえのないものが多くありました。

身口意を調える三密行

心が動き出す

瞑想をするということは、心の奥の方、あるいは深いところが動き出すことだと思います。そのために、普段落ち着かず動いてしまう部分は静止させようとするものとも言えます。そのせいか、行の生活に入ると、しばしば印象的な夢を見ました。普段は決して見ないような夢が続き、瞑想三昧の生活が、心に及ぼす影響を感じました。

もちろん、少し瞑想したからと言って深い意識体験が起こったりするわけはありませんが、これまでの人生で固定化し、硬直化している私の心が、仏さまの三昧を習う瞑想によって、何かを感じ取りざわついたのではないでしょうか。

こうした瑜伽瞑想の行において、千日とか百日と期限を設けて修行する場合に、その結願の座に勤められてきたのが焼八千枚護摩供なのです。動き出した心、少しずつでも成長しつつある心、あるいはカルマの障りによって滞っている心など、この焼八千枚護摩供によって、行者自身がきちんと見つめなおす意義があるように思います。

いにしえの偉大な行者の中には、千日間護摩行をして、その百日ごとの節目に八千枚を行じた方もあるので、本当に昔の人たちには頭が下がります。行を重ねながら、瞑想の功徳の大きさを思い、心の不思議に打たれ、そして先人たちへの畏敬を深めながら、自分なりの祈りを深め、学びを深め、気づきを深める日々も、いよいよ最終日、結願の日となりました。

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